挙式にむかう娘にお母さんがする最後のお支度・・・。洋装では花嫁を邪悪なものから守るベールを下ろす「ベールダウン」の儀式が親子の絆を演出する感動の儀式になります。
ドレス姿の花嫁の娘も、和装姿の花嫁の娘も大切に育てた娘も、身にまとうものがどんなものであれ、嫁ぐ前は「幸せになって欲しい」と送り出す思いはお母さんにとって感無量でしょう。そしてその思いを受け止める花嫁も胸が熱くなると思います。
そんな思いを形にできる儀式が和婚スタイルにもあります。ベールダウンと同じお母さんからの思い、日本伝統の着物姿でも受け止めてみませんか?結婚式でのお母さんとの思い出の演出を提案します。
1. 和装の花嫁に必要な小物
洋装の場合はベールにグローブ、ブーケを持って・・・とイメージがつく人が多いと思われますが和装の場合はなじみがあまりないので何があるのか想像がつきにくく、またそれが何を意味するのかわからない人も多いはず。アイテムの意味がわかると小物一つ一つを見る目も変わってゆき、花嫁衣装の意味が深くなりますね。
1-1. 懐剣
短剣のことで打掛が武家の娘の花嫁衣装であったので武家習俗の護身のなごりとされています。
帯の左側にさしてアクセサリー的な役割もはたします。
1-2. 末広
扇のことで、末広がりの幸せをもたらすという意味。縁起物としてこの名で呼ばれる。
清掃には男女ともに持ちます。開いて持つのはマナー違反。一面が銀、一面が金になっています。
1-3. はこせこ
化粧道具を入れる袋のことで胸元に指します。
現在では花嫁の正装用になり、装飾品として着物の胸元を飾る。
「はこせこ」は大人の女性の嗜みでもあり、花嫁道具のひとつでもありました。
1-4. 抱え帯
現在では花嫁衣装のみに用いられ装飾的な役割になっている。本来は着物の裾をたくし上げ、押さえておくための下のほうで結ぶ細い帯。
1-5. 帯
礼装には織りの帯を合わせる。なかでも婚礼衣裳に用いるのは、最も格式の高い第一礼装用の丸帯。
打掛の下には、丸帯だが一般の帯より幅、長さともに小ぶりの掛下帯を用いる。
1-6. 帯締め
帯の上から結んで押さえる装飾品。婚礼衣裳では、中に綿を詰めた「丸ぐけ」といわれるタイプを使う。
1-7. 帯揚げ
帯結びを支えるために結ぶ小布のこと。差し色効果もありますが白無垢には必ず白を使用します。
2. 和装小物をつかった母と娘の絆の儀式
和装での小物の意味が理解したうえで、花嫁支度の仕上げにお母さんにその小物たちを身につけてもらう演出があります。もちろん、意味を知っていて身につけるだけでも良いですが、意味を知っているからこそ、あえてお母さんにお支度を手伝ってもらうと感慨深いものになります。
母と娘の貴重なシーンです。写真に撮っておかれると一生の思い出になるでしょう。
お母さんはひとつひとつの身支度に「おめでとう。幸せになってね」を願うにちがいありません。
2-1. 筥迫(はこせこ)の儀
結婚式ではお母さんからの手紙とお守りを入れた「はこせこ」を花嫁の最後の身支度として胸元に差し込んでもらう儀式になります。お母さんからの想いを娘に継承し、母は永遠の幸せを願います。
「いつも女性として美しくありなさい」
「はこせこ」とは江戸時代、武家の女性が懐に「懐紙」「鏡」「お香」「お守り」を持ち歩いた入れ物のことです。
はこせこには紙、箸差(はしさし)懐中鏡などをいれ、二つ折りになってとじ帯に小さい香袋がついています。
2-2. 懐剣の儀
こちらも嫁ぐ娘の行く末の幸せを祈る儀式。花嫁支度の仕上げとして「筥迫」と一緒に新婦の胸元に懐剣を差して飾る。婚礼においては懐剣は新しい人生へ旅立つ花嫁を様々な災いから守る役割とされて今後の夫婦円満と無病息災を祈ります。
「身を守り夫をまもり そして子供を守るその覚悟をもちなさい」
懐剣は白無垢、黒引き振袖、打掛、色打掛といった和装で帯にさす短剣のことです。かつて武家に生まれた女性は護身用に短刀を所持していました。この習慣はやがて嗜みに近いものになって婚礼の最はな長刀(なぎなた)や短刀がお嫁入り道具のひとつとなりました。花嫁が武家に嫁ぐ最には武家の妻として恥じぬよう、「いざというときは自分で自分の身を守る」の意味があります。こうした武家の憧れから明治時代以降には庶民も懐剣を婚礼衣装の胸元にさすようになりました。また、剣は大昔から神の宿るものとして神聖視され、多くの儀式で魔除けのお守りとして用いられてきました。
2-3. 紅差しの儀
花嫁のお母さんが花嫁姿になった娘に幸せになるように願いをこめ、紅をさしてもらう儀式です。
「紅引きの儀」「嫁ぎの紅」といった呼び名もあるようです。
「お母さんに口紅をぬってもらうこと・・・。
幼い頃、お化粧がしてみたくてお母さんの口紅をこそっと塗ってみた。
小さな手で塗る初めての口紅は上手に塗れなくて口のまわりにたくさんはみ出した。
それを見つけたお母さん、怒るのかと思ったら、笑いながらはみ出した口紅を拭いてきれいに塗り直してくれた幼い頃の思い出・・・・。」
花嫁衣装を身にまとった日、口紅も自分できれいにひけるのにあの頃のようにお母さんに紅を入れてもらう・・・。
紅差しの儀では幼い頃を思い出しそうですね。
3. まとめ
花嫁である娘の最後の身支度はお母さんにとっても感慨深いものがあるでしょう。
ベールダウンに比べると筥迫、懐剣、紅差しとなるとお支度の時間がかかりますので洋装の時よりもお母さんとの時間を長くとることができます。
お母さんがひとつひとつ心をこめてお支度を完成させるお母様の思いは言葉になくとも花嫁に伝わるかもしれません。
お支度が終わったら言ってみませんか?「お母さんありがとう。これからもよろしくね」お金では買うことのできない演出で素敵な思い出になり、幸福な時間にきっとなります。